
【gallery】鈴木萌写真展「SOKOHI 底翳」
昨年2021年にアルル国際写真祭ダミーブック賞を受賞し、フランス・マルセイユの独立系出版社であるCHOSE COMMUNEより2022年に刊行された写真集の発売を記念して展示を開催致します。
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「底翳」(そこひ)とは、底にある翳、眼球内に潜む翳、つまり何らかの眼内部の異常により視覚障害をきたす目の疾患の俗称として江戸時代から使われてきた。そのうち、緑内障にあたる言葉は「青底翳」(あおそこひ)と呼ばれた。末期には角膜が地中海のように青緑色のようになり失明するという、ヒポクラテスの記述に語源があるとの一説もある。そうした長い歴史にも関わらず、現代の視覚障害の一番多い原因疾患である緑内障の病態は、その原因や治療法にいたるまでいまだ完全な解明がされていない。16年前に緑内障の診断を受けた父の場合も、点眼薬や手術による眼圧のコントロールの甲斐無く、視野狭窄がゆっくりと、そして確実に進行している。昨日よりも少し暗い朝に起き、物を取ろうとする手は宙を泳ぐ。
父はかつて、ありとあらゆるものをノートに書き留める人だった。旅先で写真もたくさん撮った。30年以上にもわたる編集者としてのキャリアは、常に膨大な本と文字に囲まれていた。そんなかつての生き方とは裏腹に、緑内障により少しずつ視力を失いつつある今は、書くことも読むことももはやその意味をなさなくなってしまった。
視野が狭くなっていく自分の境地を、静かに淡々と受け入れているかのように見える父はその一方で、差し込んでくる光を離すまい、失うまい、と必死で病の進行に抗う一面をふとした瞬間に外に出すことがある。だが自分の周囲に壁をしっかりと築き、父が見えないものが見えて、父が見ているものを同じようには見ることができない他者からは単なる同情や共感を簡単には寄せつけない。
その壁の隙間からそっと覗くと、そこには、底に潜む翳の淵を時には頼りなく、しかし時には新しい認知を求める確かな足どりで、出たり入ったりする父の姿が見え隠れする。父の失明への旅は、まるで翳と光の間を行ったり来たりする波のように進んでいる。
協力:twelvebooks
/////開催概要/////
鈴木萌写真展「SOKOHI 底翳」
期間:2022年11月17日(木) - 2022年12月5日(月)
営業時間:12:00-19:00(定休日:火曜・水曜日)
*緊急事態宣言や新型コロナウイルス感染拡大防止のため、展示期間などが変更になる恐れがございます。その際は当ページ並びに当店の各種SNSにてお知らせさせて頂きます。

/////書籍概要/////
本書は、「アルル国際写真祭ダミーブック賞(LUMA Recontres Dummy Book Award Arles)」を2021年に受賞。アワードの主催者である「アルル国際写真フェスティバル」と「LUMA財団」により本刊行が実現した。また、「カッセル・フォトフェスティバル」が主宰する「カッセルダミーアワード(Kassel Dummy Award) 2020」の最終選考作品となり、特別賞を受賞している。
出版社:CHOSE COMMUNE
刊行年:2022年
サイズ: 18.2x25.7cm
ページ:150pp
言語:英語、日本語、フランス語
状態:新刊、ソフトカバー、リング装
title:SOKOHI
publisher:CHOSE COMMUNE
publication Date:2022
size:18.2x25.7cm
pages:150pp
language:English, French, Japanese
condition:New, softcover with ring binding
/////作家プロフィール /////
東京都出身。London College of Communications, University of the Arts London卒業。2011年日本への帰国を機に製本技術を習得し、ヴィジュアルアーティストとしての活動を開始する。写真/アーカイブ/イラスト/製本技法/映像/インスタレーションを織り交ぜながら、障害や共同体の歴史、環境汚染、開発など様々な要因で変化する記憶や認知に関するナラティブを表現している。2020年に発表した作品「底翳(SOKOHI)」は東京のReminders Photography Stronghold を皮切りに、北アイルランド、シンガポール、京都、オーストラリアなどで展示され、フランスの出版社Chose Communeより2022年に写真集が出版された。