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【店主note】22歳の脅威 『食口 / Lee Yubin(イ・ユビン)』

2024.5.3
今日もopenしました。

投稿の写真集は当店で販売しているものではなく、どこかで販売されている写真集でもありません。

この1冊は「写真」に関するありとあらゆる人を、ざわつかせることになるだろうと確信しています。

本書『食口(シック)』は今年23歳になる韓国の女性が「家族または、同じ屋根の下で過ごし、食事を共にする間柄」をテーマに制作した写真集です。

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2023年の夏が終わりを迎え秋に差し掛かっている時に、1人の女性が「食事のシーンや食べ物に関しての写真集はないか?」と当店に尋ねてきました。

話しを聞いていると日本に留学しにきている大学生で、「食」をテーマで作品を作っているとのこと。私はいつも通り「食」に関する写真集を説明しながら、彼女の中にある「食」に含まれている中身を聞いていくことに。

ディスカッションしながら、説明した写真集の写真家たちは「食」を通して何を見るのか?という1番重要な部分を話し、ちょうど手元にあったいつもご購入頂いた本を包んでいる紙に、食を通しての図説を書き記しながら「こういうことも言える?」「韓国との違いは?」などの質問もして、彼女の中に眠る、彼女だけしか使えない感性を一緒に探しました。

小さな丸だった「食」は何本もの道が出来、手のひらよりも大きく広がってそれはもう大きな思考の地図になって、私は彼女の思考から出る言葉に、きっとこの人は私が説明した全てを写真に還元出来ると確信を積み重ねていたように思います。

話していくうちに「食」をテーマに探すより、写真家がどう作品や写真集を作るのかという部分も必要だなと感じ『Photography?end?』や、韓国語で写真家の作品を説明してある写真集を出して、「まずは写真家が何を残したのか、どう残したのか知る必要がある。そこで自分の感性を磨くと良い。」と、写真集をどう読むのかいつも私がやっているやり方を説明してみたり。。。

私が書いた図説の紙を貰っても良いか?と丁寧に折りたたんで帰って行く彼女は、お店に来店した時の無限に世界が広がっていて、何を見ていいのかと悩む顔とはうって変わって目が輝いてた。彼女に話したことは、いつも店頭で多くのお客様に説明している内容と同じなので、毎日のようにご来店して下さる悩みを抱えたお客様の1人だとその時は思っていましたね。

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あれからいくつかの季節が通り過ぎ、昨日彼女が真っ赤な1冊の写真集を手にしてお店に戻ってきました。

私はその1冊を見て驚きを超えた先に辿り着いたのです。私はこのようなクオリティーの写真集をずっと求めているのだと納得してしまいました。

「よい写真集ってどんなものですか?」
とよく質問されますが、科学技術的に写真を広めたり、写真というそもそもの根源を広めたり、視覚表現としての写真として人間の煩悩や喜怒哀楽などを伝えたり、一瞬という写真だけが出来る機能の部分で広げたりと、写真と言ってもやり方は様々なので、無限に「よい写真」の定義が出てきます。

私の中では「読める写真集」というが、良い写真集の定義の1つになっています。

写真集は読むもので、イメージビジュアルを超えた先が存在していることを先人の写真家の作品から教わったからです。

まさしく彼女の『食口』は、「食」や「ご飯を食べている風景」という雰囲気や、ビジュアルだけで終わっておらず、編集、造本、紙の選択、ありとあらゆる所から彼女の思考が感じ取れました。

図説を書いたあの日から、ここまで辿り着けるものなのか信じられない出来栄えで、大学生が、23歳になる子が、この内容を0から考えたのか今だに信じられないでいます。聞けば、無事に武蔵野美術大学を卒業出来て、この作品で卒制展で優秀賞を飾れたとのこと。そりゃ優秀賞でしょうよ!この1冊は!と声に出してしまいましたもん。

韓国で撮影されたそれらは、等身大の景色だったように思います。

韓国のソウルと聞くと、華やかでおしゃれで流行の最先端というイメージがありますが、彼女が作品に残した韓国は「ありのまま」な感じがして、日本=ロボットという外から埋められたイメージ像は内側の人からしたら遠いというか「常日頃のものではない」と言いきれてしまうように、彼女の『食口』は飲み込んだ時になんの違和感も感じない日々巡っては終わっていくありのままの韓国と思える景色でした。

こういう風景を見たかった。
観光者などの外側の人には見えない関係性や景色がそこにはあって、「食」を通して何を見るのかという質問に彼女は100点満点以上の作品を残してくれました。

写真集と、「食口」に関する文章(論文)と、展示の際に鑑賞者が感想を記せるノートの3冊を見せて貰ったのですが、「食口」からどのような広げ方をして、どのように思考を繰り返し、何に辿り着いたのか納得のいく文章で写真集とセットで持っておきたいと思ってしまうレベルでした。

これらをまとめて出版社さんがちゃんと作ったらベストセラーになるだろうと思うし、巷のアワードに出せば受賞出来てしまうだろうし、ドキュメンタリーの写真界隈がざわつくだろうし、23歳という若い世代の写真をやる人もざわつくだろうと。。。

だって写真の撮り方以上に、残した物と、それに対するアプローチや写真集という存在に対しての思考で彼女はやり遂げたから。

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この写真集は残念ながら売っていない。
お世話になった感謝を込めてと私にプレゼントしてくれたものだけど、私はこの写真集を無料で貰えるものだと思えず値段のついていない写真集を8000円で購入した。その価値は充分にあると思う。

私は彼女に初めて会った時に、テーマに対して思考出来る部分を記してみただけ。そこに「思考」を埋めたのは紛れもなく彼女であり、彼女の努力でしかない。

あれから写真集がある図書館や美術館、日韓の本屋さんに行って写真集を見てどう感じたのかエクセルに並べていったそう。気がつけば100冊を超えていたのだとか。彼女は本当に、1歩1歩インプットとアウトプットを大切にしたのだろう。

その全ての努力がつまったこの1冊に、私は希望を感じている。

イユビン Lee Yubin
『食口』

これは紛れもなくこれからの脅威になるだろう。

以下のサイトで彼女のインタビューや動画が閲覧出来ます。
2023年度 卒業研究・制作 | 優秀賞インタビュー
http://apm.musabi.ac.jp/interview/interview2023/